渥美半島           1994年〜2013年
黒河湿地
 黒河湿地は渥美半島の中ほどにありその大きさは5400uほどの規模の湿地である。私が田原市に住み始めた頃(1980年代始め)には最も気になる存在だった。しかし当時は立て札などなくて、その場所を探すのに困ったほどだった。それほど目立たない場所だったのだ。
 探し当てた後は訪れるたびに目新しい植物が加わり楽しい訪問が続いた。黒河湿地に自生する植物の中で代表的なものはシデコブシだろう。例年であれば3月下旬から4月上旬に開花して1週間ほどで満開を迎える。湿地の縁に何本も生えており、花着きが良い年には左写真のようにうっすらとピンクに染まった花で樹全体が被われる。
 ヤチヤナギはこの湿地で初めて目にすることができた。北方系の植物で、その後に見かけたのは尾瀬である。尾瀬との共通種が生えているのは興味深いものだ。
 サクラバハンノキは2月頃には開花して幾つも花を吊り下げている。4月下旬にはヘビノボラズの黄色い花もわずかながら目にすることができる。そういえばノグサを見かけたこともあった。図鑑にも写真で紹介されておらず、長い間名前がわからず困っていた種だ。
 夏になるとトウカイコモウセンゴケやミズギボウシ、ミズギクなどが咲き出す。資料によれば過去にはサギソウも自生していたようだ。かわいいハッチョウトンボが飛び回り目を楽しませてくれるのもこの頃だ。
 秋になればミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、イトイヌノハナヒゲ、シロイヌノヒゲイトイヌノヒゲ、ボントクタデ、ナガボノアカワレモコウ、サワシロギクなどが咲き競う。また数は少ないがシラタマホシクサの白玉のような花穂が見られる。コムラサキの紫色の果実やウメモドキの赤色の果実もまた美しいものだ。スイランやヤマラッキョウ、シロバナヤマラッキョウの花が咲き出していよいよ秋も終わり冬支度に入る。
 心配なのは以前はヨシやアンペライが湿地を埋めてしまいそうな勢いで繁茂していたことだ。最近では人手を加えてこれらを除去してやっと湿原を維持している状況だ。
満開のシデコブシ
ハッチョウトンボ
ヤチヤナギ
スイラン
コムラサキの果実