梅ヶ島、阿倍峠     2013年9月12日、2012年10月2日
ウメガシマシャジンの巻
 以前から気になっていた事があった。それは阿倍峠付近の林床の植生が単調すぎることだった。ササがかなりの部分を覆っているが、他の植物がほとんど見られないことだった。一般に夏〜秋にかけて大きく生育し開花するアザミの仲間やシソの仲間などが見られず、草丈の低いミヤマタニソバやヒカゲハリスゲなどがかろうじて残されているだけだった。
 答えはシカによる食害だった。当地には何回か訪れているが、かなりの頻度でシカの群れに遭遇した。林床の植物はほとんど食べ尽くされていた。苔むした老木上に何とコウシンヤマハッカが着生していたが、ここでなければ生き延びられなかったということだろう。うわさには聞いていたが、実際に被害を目にすると、想像を超える程度のひどいものだった。
 シカが登れないため崖地植生は比較的良く残されており、かなり多くの種類の植物が観察できた。ウメガシマシャジンやナガバシロヨメナなどは健在だった。ウメガシマシャジンはホウオウシャジンとイワシャジンの分布域の中間に位置する種とされる。イワシャジンは萼裂片が反り返らず水平であるのに対して、ホウオウシャジンは後方へ反り返る。ウメガシマシャジンはその中間とされている。
 ナガバシロヨメナはその名前の通り、葉が細くなるのが特徴である。いわゆる渓流型シロヨメナと呼ばれるもので、本州の中部地方以西、四国、九州などの各地で発見されている。
 湿った岩場にはシラヒゲソウジンジソウ、ホトトギスなどの花がわずかに咲いていた。
 そのほか登山道や崖地およびその周辺で見られた植物は、テンニンソウ、フジアザミ、アズマヤマアザミ、ヤマハハコ、リュウノウギク、ミヤマヤブタバコ、テバコモミジガサ、キッコウハグマ、オクモミジハグマ、シラネセンキュウなどだった。
 シダ植物ではフクロシダ、オシャグジデンダ、ハコネシダ、タカノハウラボシ、イワシロイノデ、クマワラビ、フユノハナワラビなどが目についた。
 とにかくシカによる食害対策がなされなければ現在の植生は失われるばかりであると思われた。
マツノハマンネングサ
ナガバシロヨメナ
樹上のコウシンヤマハッカ
ウメガシマシャジン