紀伊半島        2008年10月11日
センダイソウの巻
 三重県の山中のとある奥深い渓谷に分け入ったのは2008年の秋のことだった。ちょうど雨上がりだったこともあり川は増水し、水しぶきを上げ濁流となっていた。迫りくる岩場からは無数の名もなき滝が降り注いでいた。その間を縫って川沿いの登山道が設けられていたが、所々で鉄製の梯子や階段が渡してあり、ちょっとしたスリルが味わえるところだった。
 湿った岩場や林縁にはシダ植物が多く見られた。キジノオシダ、フジシダ、オオフジシダ、イワガネゼンマイ、シシラン、ヒメワラビなどが認められた。シダ植物以外ではミカエリソウの群生が見事だった。紅紫色のブラシ状の花穂は何とも艶やかなものだった。ピンク色の花をつけるハガクレツリフネは花が葉に隠れるように咲くことから和名がつけられているが、かわいらしい花だった。あちこちでこの時期にはよく見かけるキッコウハグマは目立たないが小さな白い花をつけていた。
 一方、花の時期ではないが岩壁にはイワタバコ、ケイビラン、ウワバミソウ、ウラハグサなども見つけることができた。群生するイワタバコやケイビランの花が咲いている姿を見てみたいものだと思った。
 ところでこの渓谷におもむいたのは、まだ見たことのないセンダイソウが自生すると言われていたからだった。渓流沿いの岩場を注意深く探しながらか進むがなかなか現れてくれなかった。かなり奥深い場所まで突き進むとやっとお目当ての花が現れた。薄暗い岩場の手の届かないような高いところに咲いているため思うように撮影できなかった。滝を背景にして岩場に咲くセンダイソウを狙ってみたが、あいにく花着きが悪く、いまひとつ納得のできないものになってしまった。
 ともあれ初見の花に出会えたときは喜びも大きい。その場所にあると信じていても実際に出会えたときの感激はひとしおのものがある。しばらくの間楽しい時を過ごし、その後名残惜しくも引き返し、次の目的地に向かった。
滝の岩壁に咲くセンダイソウ
ミカエリソウの群生