伊那谷       2009年5月15日-A
シナノコザクラの巻
 好石灰岩植物といわれる植物がある。石灰岩の岩場を好んで生える植物のことで、たとえばイワザクラ、イワギク、イワツクバネウツギ、ヒメフウロ、キンモウワラビなどをはじめとして数多くの植物が挙げられる。シナノコザクラはイワザクラの変種とされ、同じく石灰岩地に自生する。中部地方南部から関東地方西部に分布しているが、伊那谷に自生することを知り観察に出かけたのは5月中旬のことだった。
 奥深い山地帯に露出する石灰岩をあちこち見てまわると、ピンク色に輝くシナノコザクラの花が白い岩肌に映えてくっついてた。時期的に最盛期にあたり、切立った岩場の手の届かない場所にはまだ多くの株が残っていたのが幸いだった。シナノコザクラは石灰岩には見られるものの、同じような環境の他種類の岩には生えていないのが不思議な気がした。まさにそれが好石灰岩植物の特徴でもあった。
 石灰岩地に見られた植物は他にはヒメナツトウダイ、コマイワヤナギ、イワウサギシダ、クモノスシダ、ツルデンダなどだった。これらの植物も主として石灰岩地に分布する種だった。さらに加えてショウジョウスゲが認められた。低山帯から高山帯にまで見られ幅広く分布する種で興味深かった。
 春になると咲き出すタチツボスミレなどのスミレ類やコキンバイ、イワキンバイ、ハシリドコロ、ヒトリシズカもところどころで目を楽しませてくれた。また分布の限られた比較的珍しいチチブシロカネソウが白色の清楚な花を着けているのに出会えて幸運だった。
 道を外れて亜高山帯の針樹林内に分け入ると、ランの女王とも言われるホテイランが苔むした林床に点々と咲いていた。まさに孤高のランにふさわしい美しさを秘めていた。
 澄み切った青空、残雪をまとった白き高山の峰々、石灰岩の白い岩肌、濃緑の針葉樹林帯、新緑の木々、雪どけ水の溢れる白濁清流。これらすべての要素がマッチして素晴らしい展望を創り出していた。
シナノコザクラ
チチブシロカネソウ
ホテイラン
ヒメナツトウダイ